ビル・エヴァンズの"Waltz For Debby"(第2回)

評価:
ビル・エヴァンス,スコット・ラファロ,ポール・モチアン
ユニバーサル ミュージック クラシック
¥ 1,450
(2007-09-19)
【ディスク1】
  1. マイ・フーリッシュ・ハート
  2. ワルツ・フォー・デビイ(テイク2)
  3. デトゥアー・アヘッド(テイク2)
  4. マイ・ロマンス(テイク1)
  5. サム・アザー・タイム
  6. マイルストーンズ
  7. ワルツ・フォー・デビイ(テイク1)(ボーナス・トラック)
  8. デトゥアー・アヘッド(テイク1)(ボーナス・トラック)
  9. マイ・ロマンス(テイク2)(ボーナス・トラック)
  10. ポーギー(アイ・ラヴズ・ユー、ポーギー)(ボーナス・トラック)
Amazonランキング: 1583位
Amazonおすすめ度:
DSDマスタリング盤
ワルツをジャズに最初に持ち込んだのはマックス・ローチ。
「あぶない」アルバム

 

 私が偏愛するジャズ・トリオの歴史的名盤、ビル・エヴァンズ・トリオの"Waltz For Debby"を、YouTubeで全部ご紹介してしまうという企画、第2回です。

ワルツ・フォー・デビイ+4

ビル・エバンス・トリオ - Waltz for Debby

●Detour Ahead

 ↑これだけはYouTubeでいくら検索しても、アマチュアのギタリストさんによると思える動画しかなくて。ビル自身の作曲ではなくて、もっと以前からのスタンダード・ナンバーのようです。

●Bill Evans Trio - My Romance (tune3)

 ↑これは1979年のライブなので、ビルの急死の前の年のものです。

●Bill Evans - Some Other Time

 ↑指揮者としても著名だった、レナード・バーンスタインが、ミュージカル"On The Town"のために書いたナンバー。歌詞の日本語訳はこちら。YouTubeは、静止画のまま、アルバムオリジナル音源だと思います。 ・・・・ああ、どうしてもアルバムオリジナルがいいなあ。

●Miles Davis - Milestones

 ↑これもエヴァンズ・トリオ版の動画発見不能。やむを得ず、マイルスのオリジナルアルバムのタイトル同名曲を音源としたものから引っ張ってきました。セクステットという大規模な編成、コルトレーンも参加している豪華なセッションですが、そろぞれのソロ・プレイのかけあいが実にかっこよく、ハードで豪快なので、ビルのアルバムとは異質な空気ですね。

 なお、ビルとマイルスは親交が深く、このアルバムの次に来る、デイヴィスの歴史的名盤、"Kind of Blue"では、ほとんどの曲をビルがピアノを弾いて、このアルバムそのものがビルのクリエイティビティ抜きには考えられないくらいですが、このYoutubeの中で「地味ーに」ピアノを弾いているのは、もちろんビルではありません。

*****

 ここまでが、アルバムオリジナルの曲目ですが、現行CDのボーナス・トラックに入っている、別テイク以外のものまで追加しましょう。

●Bill Evans - "I Loves You Porgy" Solo - NYC 1969

 ↑ここではビルのソロ・プレイ。原曲はガーシュインの「ポーギーとべス」のナンバーです。

 「ポーギーとべス」といえば、何を置いても"Summertime"でしょうから、このアルバムからは離れますが、ビルによる演奏も。

●The Bill Evans Trio - Summertime (1965)

*****

 おしまいに、ビルとしてはやや軽いノリの演奏かと思いますが(それでもインタープレイが始まれば凝ってるよな、やっぱり)、いわば「アンコール」の意味を込めて「いつか王子様が」。

●Bill Evans Trio - Someday My Prince will Come

 なお、ビルの演奏記録としては、DVDでも幾つも出ているようですが、私も1本め以外は観ないままですけど、ここでは、次の3つを紹介しておきます。

ザ・ユニヴァーサル・マインド・オブ・ビル・エヴァンス [DVD] ※こちらは本格的ドキュメンタリーです。演奏というより、じっくりとしたインタビュー中心。

ワルツ・フォー・デビー/ジャズ・セット’72 [DVD]
※こちらは、amazon評では「調子が悪そうで痛々しい」とあります。

Oslo Concerts [DVD] [Import]
※これはamazon評が絶賛。

(この項おわり)

JUGEMテーマ:ジャズ

ついにあの、「NHKスペシャル うつ病治療 常識が変わる」書籍化!!

評価:
NHK取材班
宝島社
¥ 1,200
(2009-09-17)
コメント:うつ病治療の啓発番組としては画期的だった番組の書籍化。
Amazonランキング: 835位
Amazonおすすめ度:
放送された番組を遥かに超える圧倒的情報量。よくぞここまで書籍化して下さいました!!
"うつ"は"心の風邪"というより"心の生活習慣病"と思うべきなのかも。
素晴らしい視点

  私が開業サイトの方で延々と連載記事を組み、私のサイトが一気にうつサイト化するきっかけとなった、画期的な番組、「NHKスペシャル うつ病治療 常識が変わる」書籍化されました。

NHKスペシャル うつ病治療 常識が変わる

(楽天ブックス)

 類書を完全に越えたところまで、日本の現在のうつ治療の問題点と、その背後にある医師養成制度、保険制度上の問題、現状ですでになされている先進的な試みを紹介、日本のうつ治療の「光」と「影」を余すところなく描き切れています。

 番組をご覧になった方でも、改めてお読みになる価値があると思いますよ(密度が3倍ぐらいアップした感じ)。

 更には、もはや単にうつの問題を越え、精神医療とカウンセリング界の間の国家資格化をめぐってのぎくしゃくした現実にも、率直に切り込んでいる。

 ともかく、膨大で多方面な取材と、現状までの道のりをここまで生々しく掲載することに同意された(元)患者の皆様に感謝するしかない。

******

 私は、この番組を大きなきっかけとして、気分障害全般にわたる薬物療法について、このわずか半年あまりの間に、臨床心理士の分際で、むやみやたらと勉強させていただきましたし。

 実は、うつ病と気分障害の誤診と、薬物投与の問題点のおかげで、いつまでも苦しんでいる人たちがいる可能性に気づかされたのは、この番組の放送直前の時期のことでした。

 あるクライエントさんとお会いしている時に、調子がよくなると通院しなくなり、調子が悪くなると別の病院で通院再開されるパターンを数年にもわたって繰り返しておられることに気がつき、投薬歴をすべて訊き出して、カウンセリングルームに常備していた「今日の治療薬 ―解説と便覧」首っ引きで点検していったのですね。

(楽天ブックス)

 すると、処方されてきたのは、三環系にしてもSSRIにしても、ともかく抗うつ薬ばかりが中心。

 私には、そのクライエントさんには、まさに双極2型に相当する周期的な気分変動があるために、鬱が治ったと感じた時点で治療中断を繰り返す現象が生じているかに思えもしたので、リーマス、デパケン等の気分スタビライザの処方がなされたことがあるかどうかを確認したかったのですが、一番最近の病院でやっとごく少量のリーマスの処方がなされたばかりでした。しかも、リーマスの処方の際に並行して不可欠なはずの「血中濃度検査」を受けた形跡がないのです。

 私はしっかりとこうした点を紹介状にしたため、その地域の信頼できそうな精神科病院に行くことを勧めることになりました。

*****

 そうしたできごとからさほどたたないうちにこの番組に接したものですから、インパクトはたいへんに強烈でした。

JUGEMテーマ:カウンセリング

書評:ジャネット・クライン著「インタラクティヴ・フォーカシング・セラピー―カウンセラーの力量アップのために」

評価:
ジャネット クライン
誠信書房
¥ 2,310
(2005-03)
コメント:ほんとうの意味で、相手の「身になって」話を聴くとはどういうことか? そのための具体的な相互トレーニングを示した書。
Amazonランキング: 94379位
Amazonおすすめ度:
ほんとうの意味で、相手の「身になって」話を聴くとはどういうことか? そのための具体的な相互トレーニングを示した書

 カウンセリングの学習においては、「傾聴」や「共感的理解」ということがひたすら強調される。そして、ロジャーズの来談者中心療法のオリエンテー ションが強いロールプレイや事例検討会の場で、「それであなたは十分に相手に共感しているのか?」的な叱責がなされたり、「私は十分に相手に共感できな い」ことに思い悩む、カウンセリングの初学者は未だに少なくないのではないかと思う。

 正直に言って、カウンセラーの側は「理解したつもり」、クライエントさんの側も「わかってもらったつもり」でいても、実はそれが「思い込み」に過 ぎず、両者の間にいつの間にか「同じ花を見て」「同じ感情を」共有している幻想(錯覚)が解離して行き、見かけ上の和やかさが、些細なきっかけで、その ギャップを露呈して、カウンセリング関係が混乱しはじめることは、よくありがちな実態だろう。

 フォーカシングのトレーナー、ジャネット・クライン女史が開発した「インタラクティブ・フォーカシング」技法は、両者の間にある間主観的な関係性に敏感になるためのトレーニングとして、まことに洗練され、なおかつ繊細なトレーニングとなるはずである。

 通常のフォーカシングにおいても、聴き手(ガイド)は、相手の感じている心身未分化な曖昧な実感それ自体に「相手の身になって」身体で感じながら傾聴し、応答していくことが重視さ れているのだが、そうやって聴き手側に感じられた「身になった」結果として思い浮かんできた言葉やイメージをそのまま伝え返すことは避け、ある種の中立性を維持しながら、語り手の語る「その」言いまわしではじめて話し手の内部でつなぎとめられていた、実感それ自体(フェルトセンス)をつなぎとめるための、個人的な含蓄が濃い、パーソナルな表現を、丁寧にありのままに投げ返すことを重視する。それを聴き手側が安易に言い換えたら、話し手がその言葉を手がかりにやっとのことでつなぎとめている内側の曖昧な実感(フェルトセンス)との内的関わりを妨害すると見られているからである。

 しかし、インタラクティブ・フォーカシングは、発想を逆転させた。話し手が、自らの話題についての自らのフェルトセンスをじっくり味わっているその時に、聴き手側も、話し手の「身になって」、フェルトセンスを、いわば「疑似体験」するつもりで味わってみるための、「二重の共感の時」と呼ばれる沈黙のひとときを取ることを技法的段取りに組み込んだのである。

 そして、その沈黙のひと時の後に、聴き手の側が、話し手の身になって吟味した、手短な言葉や一つのイメージ(慣れるまではこれを見出すことをたいへんだとお感じかもしれない)を先に呈示し、話し手はそれを自分の実感と再照合する。

 その結果、聴き手の言葉が、思いの他、自分の実感と「しっくり来る」こともあろうし、一面はとらえてくれていても、何かズレていると感じることもあろう。いずれの場合も、その結果を聴き手にフィードバックするわけである。

 誤解なきように言えば、これは聴き手側が話しての実感に「的中」する言葉やイメージを見出さねばならないという強迫に駆られる必要はない。たとえ「ズレて」いても、そのズレを「共有する」ことが、相互理解を非常に深い次元で促進する刺激剤となるのであるから。

 ここまで進めたら、今度は語り手と聴き手が役割交代して、同じことを進める。つまり、それまでの聴き手は、今度は、そこまでの話の流れで「自分個人が」感じていた実感を相手に伝え返し、傾聴してもらえるのである。

 こうしたことを、まるで野球のイニングを表と裏で進めるように往復していく。「相手の身になって感じて、応答すること」と「自分自身の実感を語る こと」を完全に別の段取りとして語るコミュニケーションをすることをとことん「構造化」しているのが、この技法の最大の特徴である。

 それは、相手を尊重し、自分の気持ちも尊重する対話を、超スローモーションで少しずつ丁寧に進めることになる枠組み、いわば、CT-MRI(連続断層撮影)的な形で間主観的なプロセスを相互検証できるフォーマットなのである。

 この技法で傾聴訓練を重ねたカウンセラーは、現場臨床の面接の中でも、クライエントさんの話を聴くうちに、「今の話を聴いていて、私はこんな感じ がしてきたんだ・・・」なとどいいう形で、ポツリと手短に言葉を差し出してみる際に、それがクライエントさんの心にいい形で響く言葉になる感度が圧倒的に 上昇する。

 ただ、本書の邦訳の副題に「カウンセラーの力量アップのために」とつけてしまったのは、実際の本の内容とは少しかけ離れてしまったと思う。なぜなら、本書の中で示されている事例の大半は「カップル・セラピー」の現場での適用事例だからである。

 自己主張的であるように小さい頃から教育された欧米の人たちにとって、恐らく連れ合いとのいさかいは日本の比ではないくらいに激しく、両者を傷つけあうものであろう。本書が、そうした生々しい現実を背景として生まれたものであることを、心に留める必要があると思える。

ジャネット・クライン/インタラクティヴ・フォーカシング・セラピー―カウンセラーの力量アップのために

(楽天ブックス)

JUGEMテーマ:カウンセリング

2009/11/16 ビル・エヴァンズの"Waltz For Debby"(第1回)

評価:
ビル・エヴァンス,スコット・ラファロ,ポール・モチアン
ユニバーサル ミュージック クラシック
¥ 1,450
(2007-09-19)
【ディスク1】
  1. マイ・フーリッシュ・ハート
  2. ワルツ・フォー・デビイ(テイク2)
  3. デトゥアー・アヘッド(テイク2)
  4. マイ・ロマンス(テイク1)
  5. サム・アザー・タイム
  6. マイルストーンズ
  7. ワルツ・フォー・デビイ(テイク1)(ボーナス・トラック)
  8. デトゥアー・アヘッド(テイク1)(ボーナス・トラック)
  9. マイ・ロマンス(テイク2)(ボーナス・トラック)
  10. ポーギー(アイ・ラヴズ・ユー、ポーギー)(ボーナス・トラック)
コメント:ビアノ・トリオ形式によるジャズの名盤として名高い録音です。クラシック音楽になじんだ人には特にお勧め。
Amazonランキング: 728位
Amazonおすすめ度:
DSDマスタリング盤
ワルツをジャズに最初に持ち込んだのはマックス・ローチ。
「あぶない」アルバム

 私は基本的にはクラシックを中心に聴いてきて、時々ビートルズと、マドンナやオリヴィア・ニュートン・ジョンやカーペンターズと一部のプログレを 聴くのを別にすると、J-POP、しかも中島みゆきと奥華子を除くとavex系に偏向し、浜崎あゆみ命な人間なんですが、1,000枚を超える所蔵CD、 とても全部はiTuneに入れられるわけもない。それでも私のiTunesは、楽章や変奏や歌劇の番号アリアごとに別れると、現状でも1万曲を越えている 状態です(^^;)

 ところが、以外にも、独身時代、ジャズを聴くことににチャレンジした時期があります。いわゆる「名盤」はコルトレーンでもコールマンでもマイルスでもそこそこ持っていて、全部で数十枚にはのぼる筈ですが、結局繰り返し聞いて偏愛している唯一に近いアルバムが、ビル・エヴァンズ・トリオの"Waltz For Debby"なんですね。

 ところが、一度その膨大な音楽データベースごとメインのHDをやられてしまって(iTunes Storeで購入したものだけは別にしていて生存)全部CDからセレクトし直してコピーしなおすというとんでもない労力がかかることを、久留米に戻って、 まだ開業が閑古鳥の極限だった頃やっていくために、段ボール8箱にも及んだCDを確認して行ったのですが・・・・・ううう、未だにこの愛聴盤が出てこない(^^;)

ワルツ・フォー・デビイ+4

ビル・エバンス・トリオ - Waltz for Debby

 知り合いとの会話で、「クラシックの延長で、このアルバムなら凄く自然となじめるかと思う。・・・・けど、でもすんごく本格的なジャズの名盤でもあるらしいよ」と勧めたくなったのをきっかけに、YouTubeをあさりまくりました。

*****

 まずは明らかにアルバムそのものの音源=ベーシストが、このアルバム発売8日後若くして亡くなった、スコット・ラファロによる、ヴィレッジ・ヴァンガードでライブ収録された、1961年6月25日(私すらまだ0歳!)の、アルバムタイトルと同名曲を。

 CDには同時収録された、テイク1の方かテイク2の方かはもう忘れました。(注:画像がこのサイトに取り込めません)

●Bill Evans  Waltz for Debby(YouTube クリックすれば該当ページに飛びます)

 ほんとうは、このオリジナルアルバムを、是非CDで聴いていただきたいのです。もちろんステレオ音源で、音質はかなりいいほうではないでしょうか。ワイングラスがかすかに触れ合う響きがむしろ心地いいというか、場の雰囲気も繊細に伝わりますし。

*****

 以下はYouTubeの映像検索を駆使して、アルバムのオリジナルの順序で、アルバム収録からは数年後以降の映像記録をすべて並べます!!

   もっとも、曲によっては、メンバーが入れ替わりつつも継続された、ビル・エヴァンズ・トリオでのものが見つからなかったので、突如、ビルと関わりが深 かった、マイルス・デイビス(でもこれもピアノはビルかもしれない???)や、ジム・ポールに登場いただきます。更に意外な演奏も・・・・

●Bill Evans-My Foolish Heart

 ↑ほんとうは、アルバムでは冒頭曲なので、はるかにしっとりと静かにはじまるんだけど、この演奏だと、前の曲からメドレーで続けてるっぽくて、アルバムの雰囲気とかなりテイストが違うかも。音だけですが、こちらにアルバム音源のものがあります。
 

●Bill Evans - Waltz For Debby

 ↑これはかなり収録条件がいい演奏みたいですね。

●Waltz For Debby/Kronos Quartet

 ↑現代音楽が得意なクラシックの弦楽四重奏団、クロノス・カルテットによる知る人ぞ知る名演・名編曲。楽器が変わっても、ビルのオリジナル・アルバムへのが感じられて仕方がない。

Music of Bill Evans

Kronos Quartet, Eddie Gomez & Jim Hall - Kronos Quartet: Music of Bill Evans

 なお、このクロノスのアルバムには、ビルと縁が深いベースのエディ・ゴメスとギターのジム・ホールがそれぞれ3曲ずつ参加しています。

(以下、第2回に続く)

JUGEMテーマ:ジャズ

NHKスペシャル「魔性の難問 -リーマン予想 天才たちの戦い-」

評価:
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ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
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(2002-09-13)
コメント:奇矯な人物ともいえるが、同時に人間臭くもある、天才とその伴侶の生き様を描いたいい作品だと思う。ナッシュ役のラッセル・クロウの演技はほんとうにその頃のナッシュその人に似ているそうです。ある程度のフィクション的誇張はあるにせよ、統合失調症についてドラマとして�
Amazonランキング: 2335位
Amazonおすすめ度:
表現がオーバーのような気が…
名匠ロン・ハワードの最高傑作ヒューマンドラマ
真理だと思う

実は最近の私は、「天地人」をたいてい予約録画で観る以外、テレビ番組を殆ど全く観ない生活を送っている。ところが昨晩、事前の予告とかをまるで知らないままに、このNHKスペシャルに遭遇できた。

●この番組のNHK公式サイト

 番組がはじまった段階で、映画「ビューティフル・マインド」を観ていた私は「ひょっとして在世中のナッシュへのインタビュー出てくるのでは?」と期待したが、その期待はかなえられた。

(楽天ブックス)

 「リーマン予想」とは、数学上の最大の未解決の難問のひとつとされる。wikipediaの記述だけでは、私を含めた数学の素人には何がなんだか?になっちゃうけど、ひとことでいえば、素数(割 り切れない数)の配列というのには、一見全然規則性がないんだけど (1,2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,37,43,47,51,53,59,61,67,71,73.....でよかったか な?)、そこに一定の法則がある可能性について、19世紀半ばに、ドイツの数学者、ベルンハルト・リーマンが立てた予測とのこと。

 このリーマン予想については、イギリスのハーディと リトルウッドのコンビをはじめとする当代髄一クラスの数学者が長年たいへんな情熱を注いで証明に取り組んだけど、この2人に関しても、結局部分的な傍証に 当たる証明しかできないまま、最後にはリーマン予想そのものが間違っている可能性まで示唆するところまで諦めてしまった。

 その次にリーマン予想の証明に多大な情熱を注ぎ込んだのが、プリンストン大学で、すでに「非協力ゲーム理論」をはじめとする分野で多大な功績があった、ナッシュである。

 しかし、彼がこの難問と格闘し、リーマン予想についての講演会を開いた時のナッシュの姿は、ラッセル・クロウがナッシュ役を演じた上述の映画でも描かれたとおり、以前とは異なる惨憺たる様子だった。

 この段階で、すでに統合失調症の本格的発症の兆しがあったのである。ただし、映画でも描かれたとおり、実はそれ以前からも、多くの人には気づかれ ないし、本人にも自覚できない形で火種はあったので、リーマン予想についての研究への没頭し過ぎが「原因」であるとまでは誤解しないで欲しい。単なるスト レスだけでは統合失調症に至ることはありません。

 仮にストレス要因が「トリガー(引き金)」になる可能性を認めるとしても、番組では紹介されていませんでしたが、アマゾンの書評欄によれば、ナッシュはこの時妻との間に子供ができるというタイミングでもあったようです。

 ここからは私の推測なんですが、実はこうした一見さりげない、ごく普通の事柄の方が、意外と統合失調症の人の発病トリガーとして意外と大きな意味があることが少なくないことを、私は中井久夫先生の著作で学んできました。

 それでも、すでに統合失調症から回復して幸せな余生を送っている(でも明らかに頭脳にある種の明晰さが十分に回復しているのは表情からも見て取れる)81歳のナッシュが、

「数学的探求というのは、合理的思考を突き詰める側面と、そこから跳躍して、非合理の領域に身と投じることを繰り返す必要があるのです。そのことが自分を追い詰めた側面はあったのかもしれませんね」

といった感慨を漏らしているのは興味深かった。

*****

 なお、映画では幻覚として描かれているナッシュの症状は、ほんとうは幻聴だったと、何かの機会に伝え聞いた気がする。恐らくそれは、映画の原作である、以下の本に書いてあることなのだろう:

ビューティフル・マインド 天才数学者の絶望と奇跡(邦訳すでに絶版)

 この本、訳に相当問題があるとのことなので、原書も紹介します。

A Beautiful Mind: The Life of Mathematical Genius and Nobel Laureate John Nash

(Googleブックスで一部が読めます)

 なお、映画「ビューティフル・マインド」については、自殺学の権威である、精神科医の高橋祥友先生がお書きの、「シネマ処方箋」という本でも1つの章を割いて言及されています。

*****

 なお、「幻覚とはあそこまで鮮明に見えるものなのか?」という疑問をお感じの方は、一般の方ばかりではなくて実際の患者さんにもあるようですが、ああやっ て幻覚と日常的に対話するという次元まで行くと確かにフィクションめいてくるかと思いますが、患者さんによっては、幻覚とは、多くの方がイメージするよう な、「ぼんやり浮かんで見える」なとという次元ではなく、まさに「3D実体」として、鮮明に生々しく「そこにある」ように感じられる例も少なくないことを、私は過去の 臨床体験の中で、何人かの方からうかがって来ました。

*****

 ナッシュの件ばかりではなく、多くの数学者が証明に失敗し続ける中、リーマン予想に関わることは、数学界で次第に回避される時期に入ったという。

 しかし、それでもリーマン予想の証明に情熱を注ぎ続け、2回の失敗にもめげずに、70代になった今も挑戦し続けているのが、フランスのルイ・ド・ブランジュである。

 彼は、リーマン予想が、単に数学上の問題だけではなく、様々な科学法則の解明に役立つと確信していたが、時代はいつの間にか彼に追いつき、ある数 学者と物理学者の茶話会でのさりげない対話をきっかけとして、学際的な形で、「リーマン予想」を、現在最大の学問的テーマとして掲げる国際的な取り組みが 大がかりに始まっているという。

 ところが、そうした国際学会とは距離を置き、孤高を保ったまま、ド・ブランジュは、ついに3度目のチャレンジとなる論文を完成させるまでを、このドキュメンタリーでは追っている。

 論文を封筒に入れて、家を出て鼻歌を歌いながら歩き出した彼は、それでもなお言葉にする。

 「仮に今回の証明がまた失敗に終わっても、私は諦めない。再挑戦し続けるよ」

 そして、番組の最後のテロップでは流されるのだ。

 「数学的証明が認められるまでには、論文発表から2年間、世界中の数学者からの厳しい検証に耐えられるものとならねばならない」

*****

 この番組では、インターネット界の暗号化証明書の分野で名高い、VeriSign社の一番厳重な管理をくぐった金庫の下にある「宝物」が、スーパーコンピューターを駆使して見出された、物凄い桁数の素数のデータベースであることも紹介され、クレジットカードの電子決済など、私たちの身近なところで素数が大きな意味を持つことも紹介している。

 その一方では、学者たちの中に、リーマンの予測の証明が、宇宙法則全体を説明する「万物の理論」の成立につながることへの壮大な期待もあることが語られている。

 古くはギリシャの哲学者に始まり、ニュートン(彼も統合失調症だった可能性が高いことを中井久夫氏と飯田真氏は「天才の精神病理」の中で述べている)、多くの数学者や物理学者が、この「万物の理論」を求めての魔性の探求にエネルギーを注ぎ込む生涯を送った。

 しかし、この番組を観ていて、数学の門外漢である私(難しい理屈は可能な限り噛み砕いて、3D画像を駆使して直感的に何となくわかるような番組に なっています)にとっても、学問を極めようとする挑戦者たちの、何度失敗しようと、夢と情熱を失わず、しつこいまでに粘り強く、同時に自由奔放ですらある 人間くさい生き様に触れる機会となり、また、専門が違う意外な人との偶然の出会いが学問の大展開のきかっけになることへの感慨等、不思議と「元気がもらえる」後味を残したのである。


JUGEMテーマ:カウンセリング
JUGEMテーマ:映画

書評:クリストファー・レーン著「乱造される心の病」

評価:
クリストファー・レーン
河出書房新社
¥ 2,100
(2009-08-22)
コメント:自説に都合のいいように膨大なデータを恣意的に解釈した側面が時々顕著に表れる、英文学者によるトンデモ本?
Amazonランキング: 31383位
Amazonおすすめ度:
自説に都合のいいように膨大なデータを恣意的に解釈した側面が時々顕著に表れる、英文学者によるトンデモ本?
医は仁術なり、ではなく医は算術であるという本
原著は2007年に刊行され欧米では話題となった有名な著書です。

JUGEMテーマ:カウンセリング
 

 前と後ろから攻めて3分の2読みましたけど......

 もうだいたいのところはつかめました。

 2009年10月4日付読売新聞における春日武彦氏による本書の書評は、まるで本書がうつ病と診断されている人について書かれた本であるかのような誤解を与えかねない記述になっているが、本書の実態はそうではない。

 この本はあくまでも、単に内気(原題:"Shyness")な人が、特に「社会不安障害」という診断に祭り上げられる過程について告発する意図で書かれたものである。

 しかも原著者は精神医学の専門家ではなく、気鋭のジャーナリストですらない。英文学者である。amazonの英語版サイトで星をほとんどつけていない人の酷評ぶりはすさまじい。


 「この本は教養課程キャンパスの象牙の塔の中で広まっているように思える、奇妙で、反科学的なパラノイアの典型です」(Gina Pera氏)


 結局、純情なまでの「フロイトおたく」の英文学者が、「正義の」力動精神心理学(=「フロイトの」精神分析。しかもかなり単純化されている)の旗の下、クレペリンに始まる「伝統的精神医学=脳科学主義者=薬物療法推進論者」の系譜という「悪の枢軸」を「仮想敵」として仕立て上げて、熱心にいろいろ調べて書いた、「まずは結論ありき」の本である。

 フロイトを引用する時の意図も、時々あまりに強引に自説に好都合な形になっている(それは、素直に読めば、「フロイトは将来の薬物療法の可能性に期待をかけていた」ことを示唆する筈の、「精神分析学入門 (中公文庫)」で書かれたフロイト自身の叙述を引用した、p.213以下で顕著に明らかとなる)。


 DSMを「脳科学=薬物療法的」観点からのみとらえるのは強引。むしろそこから一定の距離を取ることに腐心している面もある。

 むしろ、DSMが良きにつけ悪しきしつけ、行動主義的な「操作的定義」であり、特定の見地からの「原因論」に立ち入らないことを目指したとみるのが正道のはずである。

 薬物療法を使う医者が、まるですべて生得的な脳の問題としてしかとらえていないかのような「極論化」が行き過ぎている。心理的・社会的要因を無視する精神科医はそう滅多にいないと思う。

 つまり、医者が、DSMに「基づいて」診断や治療を「決めて」いるというのは、もはや「都市伝説」の領域に近い。

 心ある医師は、DSMが「診断基準」としては全く表層的なのを承知で、「共通語としての診断名」をDSMから慎重に「あてはめている」だけのことである。

 (もっとも、どういうわけか、本書では、統合失調症と「重たいうつ病」についてだけは、同じ論理では斬り掛らない。もうこの段階で「内因性精神病」概念の確立者としてのクレペリンを肯定していることになる「自己矛盾」があるのだが)

*****

 更に、裕さんのサイトふうに(^^)、翻訳の誤りを指摘すると、pp.41-42に出てくる「フランスのピエール・ジャネット」は、もちろん「ジャネ」が正しい。

 ・・・・ああ、フロイトの先駆者である筈の「力動心理学の雄」のジャネ様に何たる仕打ち。

(ジャネのフロイトの先駆者としてのあまりの重要性については、エレンベルガー(エランベルジェ)の「無意識の発見」(中井久夫訳)の上巻に詳しい)

エレンベルガー/無意識の発見 上 - 力動精神医学発達史

*****

 読んでいるうちに、精神分析系の人なら、大学院生の皆さんでも、内心(^^;;;;)な本だとお思いになるんじゃないかと。

 ひ・い・き・の・ひ・き・た・お・し

*****

 ●Amazonにレビュー掲載 しています。

 ★★にしているのは、著者レーン氏の旺盛な資料収集や取材量に敬意を表して★ひとつ余計につけたというだけのこと。

 冨高氏の著作の方を、その誠実さに敬意を表して★★★プラス2分の1とみなしていただいていいくらい、というのが本音です。


書評:ジェンドリン「フォーカシング指向心理療法」

評価:
ユージン・T. ジェンドリン
金剛出版
¥ 3,990
(1998-09)
Amazonランキング: 266972位
Amazonおすすめ度:
フォーカシングを臨床現場でどのように生かすか?・・・・様々な技法との統合的アプローチの可能性を、開発者自身が示唆した基本文書

 フォーカシング技法の臨床現場での適用とは、単に「フォーカシング」で書かれている「単一技法体系」としての技法を、クライエントさんに学んでもらうことではない。そのようにしてフォーカシングの教示を単にカウンセリング場面で用いようとすると、実際には大きな壁が横たわる。

ジェンドリンは本書で指摘する。臨床現場においては、フォーカシングは「エンジンオイル」なのであり、「エンジン」そのものではないと。

そのようにとらえてはじめて、フォーカシングは、精神分析的アプローチや行動療法や認知行動療法すら含む、およそどのような技法的アプローチとも柔軟に結合できる、文字通り「なんでもあり」の多面的なものになる。

自分のために、技法としてのフォーカシングを「身につける」ことと、臨床現場でそれをどのように適用するかは別次元の問題であり、後者を指して「フォーカシング指向心理療法(Focusing Oriented Psychotherapy)」と呼ぶ。

本書(上巻)ではその基本原則が語られ、下巻では具体的な様々なアプローチと融合するための応用編となっている。

本書の刊行前に、ジェンドリン自身による「夢とフォーカシング―からだによる夢解釈」、本書の刊行後、アレクサンダーテクニックと融合させた「ホールボディ・フォーカシング―アレクサンダー・テクニークとフォーカシングの出会い」、ブリーフセラピーとの融合の可能性を探った「解決指向フォーカシング療法―深いセラピーを短く・短いセラピーを深く」、そして、「フォーカシング指向アートセラピー」などが次々と出版されているが、これらは皆、広い意味での「フォーカシング指向心理療法」を、各領域に造詣の深いセラピストたちが更に展開したバリエーション群に他ならない。この種の著作はこれからも邦訳されていくことであろう。

 こうした、臨床現場での多様な取り組みの原点にあるのが、フォーカシング技法の開発者であるジェンドリン自身が著した本書なのである。
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書評:ジェンドリン「夢とフォーカシング」

評価:
ユージン・T. ジェンドリン
福村出版
---
(1998-12)
Amazonランキング: 505374位

  夢分析というと、「高い塔はペニスの象徴」式に、出たきた題材について、まるで辞書を引くかのように「象徴解釈」するものであるというイメージが、多くの方には強いのではないかと思う。

 本書で示された夢へのアプローチは、そうしたありがちな夢分析の本とは全く性質が異なる。原著のタイトルに、"Let Your Body Interpret Your Dreams"(あなたの身体に夢を解釈してもらう)とあるがごとく、16の質問を用いて、夢を見た本人が自分の身体に実感に問いかけていく中から、思い もよらない洞察にたどり着くことができる。その展開は、夢について専門的に知識がある専門家の予想能力を超えた、たいへんにダイナミックな形となることが 多い。

 つまり、夢をみた人を相手にする「専門家」の側の方が、夢についての詳しい知識を持っているという既成概念を、ものの見事に打ち破る。

 そこには、著者ジェンドリンが開発した「フォーカシング」技法のエッセンスが生かされているのであるが、実際に活用してみると、フォーカシングの学習暦が全くない人においても、非常に安全度が高く、怖い思いも苦し い思いもせずに、むしろスリリングでユーモラスでありながらも、人生のペーソスをしみじみ味わえる、貴重な体験の場を提供できる。

 ジェンドリンは、この技法の中で、ユング派の夢分析やゲシュタルト療法からもヒントを得ており、夢と関わるためのツールとしての「統合性」において、独自の存在意味を持つものだと思えてならない。

 そこで尊重されるのは、ロジャーズのパーソン・センタード・アプローチに共通する、夢の理解をしていく主体はあくまでも夢を見た本人であり、夢 フォーカシングのトレーナーは、あくまでも控えめで何かのヒントになる「提案」を試みる存在であるに過ぎない(その提案がピンと来なければ夢を見た本人は それを活用しなくていい)という関係性である。

 すでに述べたように、この技法は、わずか16項目の「質問(提案)」項目に、「バイアス・コントロール」と呼ばれる、夢を見た人当人が自分の夢 を日常をとらえるのと同じ認知様式で「自動思考」して済ませてしまうに留まらないための、控えめな介入の仕方という非常にシンプルなものにまとめられている。

 16項目の質問をすべて手使いこなせる必要などない。普段使いとしては、自分の肌になじむいくつかの質問を、夢をまだ覚えている起き抜けに試みてみるだけでも、ただ自分なりに夢を回想して意味づけるだけの場合とは全く異次元の夢理解と心身の解放が生じることに驚かれるかもしれない。

 悪夢に思われた夢ですら、大抵の場合、思わず自分でも苦笑するような、人生のウィットに富んだ予想外の気づきに結びつくことが多いのである。

 本邦訳の難点を敢えて述べれば、原著と構成の順序が入れ替えられたことが果たしてほんとうに明快さに貢献したのかどうかいう思いは個人的にはある。

 更に言えば、付録Aの「理論編」の翻訳が、何か原著を完全に消化していないとも感じさせられる生硬さがあるのが残念である。

 星1つの減点はそのせいであるに過ぎないと思って欲しい。

 どうもこの「夢フォーカシング」の技法そのものは、一部の非常に熱心な方々を除くと、日本のフォーカシング関係者の「トレンド」から外れつつあることをたいへん残念に思っているひとりである。

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「ハウルの動く城」におけるハウルと火の神の関係

評価:
宮崎駿,ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
¥ 2,800
(2005-11-16)
コメント:この作品の真の主人公はソフィーではなくて、ハウルだというつもりで観てみるといいのではないかと(^^)そう観ると、もう、宮崎さんの女性への思おむき出しの作品だとわかってくる。
Amazonランキング: 1078位
Amazonおすすめ度:
作品の熱気が伝わらなくなってきた
宮崎流ラブロマンス、子供向けではありません
ちょいイラっとする

JUGEMテーマ:カウンセリング

 私のまだ観ていなかった、「最後の」ジブリ制作による、宮崎駿の長編作品である。

 結論から言おう。

 
私は、宮崎駿作品の中で、この作品に一番心を揺らされた。

 ・・・・というか、現段階では、「サマーウォーズ」と並んで、日本の長編アニメの中で格別に私の好みであると断言してしまいたい。

***** 

 深層心理的・心理=社会的含蓄、特に「辺境人」性を持つ魔女の文化に関わる形で、ハウルの存在のあり方について参考になりそうなことは、すでに「魔女宅」の記事のほうでかなり書いたことになると思う。

 途中までは、ここまで書いた2本と同じくらいに緻密な分析を組み上げながら観ていたのだが、物語のかなり最後の方のある箇所で、私のメモが停止してしまった。

 文字通り「絶句して」しまった。

*****

 この映画の主役は、あくまでもハウルであって、ソフィーではないということ。

 この作品が、当初は、「時をかける少女」「サマーウォーズ」の細田守さんを監督として作る予定だったことは知っている。

 だが、結果的に、宮崎さんは、「千と千尋」の中で未消化に終わった「あるテーマ」(具体的に言うと、千尋とハクの関係である)を、より率直に描き直したことにもなり、結果的に宮崎さんご本人が一番「やりたいことを思う存分描き切った」のではないかと、私なりに推察します。

*****

※以下、完全にネタバレです※

 終わりの方の、子供時代のハウルとソフィーが遭遇するシーンから読み取れることに焦点を絞って、私なりに解説してたみたいと思います。

 この作品世界では、魔女という存在が人の「心」を奪い取ってしまうということが繰り返してモチーフとして登場します。

 映画の前半から観ていると、繰り返し反復されるパターンとして明白なのは、空から流星群のように、青白い光の玉が降り注ぐ時というのは、この国の王室付き魔法使い(というより、もはや実質的支配者ですね)、マダム・サマリンが、人の心を誘惑し、「心を奪い取る」ことで「使い魔」にしてしまう、まさにその時なのですね。

 つまり、ハウルはある段階で確かにサマリンが校長をしていた魔法学校に入学し、修行を積んだのは確かでしょうが、実はそれ以前の子供時代の早い段階で、サマリンに「目をつけられ」、すでに魂を奪い取られていたのだと思います。

 ところが、ハウルが、こうして魂を奪い取られる瞬間に、どうも他のケースとは異なることが生じたようです。

 つまり、ハウルが青い光の球を飲み干したケースに限って、ハウルの「心」を実際に仮託した対象は、その瞬間に生み出された(?)、火の神カルシファーに対してだったのですね。

 つまりここですでに、ハウルとカルシファーの間に交わされたという「契約」の本質が十分絵解きされています。

  1.  ハウルはカルシファーに自らの魂を仮託する。
  2.  ハウルはカルシファーの炎にエネルギーを備給する責任を負う。
  3.  カルシファーは、その代償として、ハウルの言われるがままに魔力を使ってあげねばならない。

 恐らくこの3か条が、ハウルとカルシファーの間の契約内容です。

 このことが、マダム・サマリンに対するハウルの「相対的な」自立性(完全に自由にはなれないのですが)が、かなり早い段階から確保できていたことを示唆します。

 そして、その、(ユング風に言えば)グレートマザー(大母)的なサマリンに、単に飲み込まれてはしまわないで、ハウル自身の「自我(ego)」を 形成、維持する上での心の支えとなっていたのが、時空を越えて表れたソフィーと、ソフィーからの「約束」だったということになります。

 ソフィーは、結果的に、前思春期以降のハウルのおぼろげな記憶の中で、女性像の元型(つまり、アニマですね)として機能し続けていたことになります。

 アニマというのは、男性に内在する「内なる女性」ですが、実はアニマを「対象化」して思い描き続けられるから、男ははじめて男としてのアイデン ティティを形成して行ける、社会的な仮面としての「ペルソナ」(ハウルがいくつもの変名を持つことに象徴される)も形成できるともいえます。

 もっとも、ハウルにも手痛い失恋の経験があった。つまり、ハウルですら、「アニマの投影」の対象としてふさわしい現実の女性を見誤ることはあったようです(見かけが二枚目過ぎるから、女性ととりあえず付き合うまでは、魔法使いであることを巧妙に隠した次元でなら、あまり苦労はなかったろうと思われます(^^;)

*****

 いすれにしても、ハウルは「カルシファー=を自由に操れる存在」まさに、この前「魔女の宅急便」論で書いたように、バリントの言う「地水」という、「前-対象」的なもののうち、何と2つも味方につけている(飛べますしね)。

 こうして、ハウルはフィロバットに分類できます。 

*****

 今回は、ユング的理解も加味してみましたが、ここで書いたことでしたら、故・河合隼雄先生の「ユング心理学入門」の第8章「アニマ・アニムス」を中心とする章で十分参考書になると思います。

河合隼雄/ユング心理学入門

(楽天ブックス)

・・・・こういう言い方が少し偉そうに響いたかもしれませんがお許しを。

 私はユングの畢生の大作のひとつ、「変容の象徴」を、若き日から心理学書ベスト5に入る溺愛をしてきた、意外とユングおたくな人間なので。

(楽天ブックス)

*****

 なお、ユングの著書(論文集)の中では、以前も開業サイトのほうでご紹介しましたが、現場臨床家の人には「心理療法論」が、一般にはあまり知られた本ではないですが、流派を超えて、刺激になるかと思います。

 絶版しているようですが、中古市場で容易に入手できます。


BOY MEETS GIRL -「崖の上のポニョ」とバリントのオクノフィリア-

評価:
---
ウォルトディズニースタジオホームエンターテイメント
¥ 3,300
(2009-07-03)
コメント:実はこれってやっぱり
Amazonランキング: 177位
Amazonおすすめ度:
アニメオタクの意見無視!
子供に『やさしさ』というものを自然に教えられる
感想

 これは高校時代に留学した経験がある若い友人にうかがったのだが、

「アメリカではティーンである自分たちのことをいつも大人扱いしてくれたから、すごく気持ちがよかった」

とのことである。

 なるほど、欧米では、思春期に入ると、「大人予備軍」としてティーンエージャーを扱う文化があるのだと思う。

 ところが日本はどうか? 子供が徐々に大きくなり、「純粋無垢さ」を失い始めると、むしろそのことに苛立ち、どのように取り扱うかに困惑する親世代が今でも多いのではないか?

*****

 この映画の中にも、そういう「父親」が登場する。

 (・・・・・以下、完全にネタバレに突入します・・・・・)

 名前をフジモトという。彼は、汚濁に満ちた人間界が嫌になり、今や、海中に珊瑚の邸宅を持つ、魔法使いのような存在として生きている。

 彼は壮大な「人類補完計画」、もとい、「地球再生計画」を持っている。

 「命の水」と呼ばれる精製された海のエッセンスのようなものを抽出し、それを井戸の中である臨界量に達させた時に、一気に「生命の大爆発」が生じ、古生代カンブリア紀の海洋生物の楽園が復活することを夢見ているのだ。

 すでにそれを実現するためのプランテーションとしての、結界で守られた「牧場」をもっており、そうした古生代の生物たちに囲まれて、大事に育てられているのが、彼と、海の女神、グラン・マンマーエの間に生まれた娘たちなのだ。

*****

 ふとしたきっかけから、その中の一番お姉さん格の一匹(ひとり?)が、普通の海辺に迷い出ることになり、海辺の崖の上に住む少年、宗介に助けられる。

 彼女が閉じ込められたガラス瓶を宗介が割る際にできた小さな傷を彼女がなめて癒した時、彼女の中で「人間の血で劣等遺伝子が覚醒(以上、父フジモト談)」してしまい、急激な人間化の兆候が見られはじめる。

 宗介は彼女にポニョという名前をつけ、彼女もそれを気に入る。

*****

 しかし、ポニョは結局フジモトの差し向けた波の使い魔によって再び父の「竜宮城」に連れ戻される。

 彼は人間になりたがって言うことを聞かなくなった「ブリュンヒルデ(=ポニョ)」が気に入れない。

 「命の水」の力で、彼女を再びもとの「無垢な」姿に引き戻してしまう。

 彼は、一見エコロジー主義者に見えるが、実のところ、自分と関わる対象すべてが自分を快適にしてくれるように操縦しようとする、裏返しの支配欲の塊なのである。

 まるで、自分が鍵穴で、の方が自分にしっくりとあわせてくれる形にならないと気がすまない。

 彼は自分以外の対象が自分に「膚接」してくれることを求めている。相手との関係の間に「隙間」を感じると、まずは相手の方を自分に合わせてくれるように振り回す。

 相手が、自分の気持ちを完全に「察して」先回りして行動してくれないと、もうそれだけで耐え難いわけであり、相手が自分からは独立した自我を行使し始めたら、片っ端からその目を摘み、自分のためだけの存在にしようと操作するである。

 もとより、これは実はそれだけ相手の存在に自分が依存して、はじめて自分を支えているということであり、故・土井健郎先生が使った本来の意味での「甘え」の状態のバリエーションであるとも言える。

 実は親の方が子供に「甘える」という世代間逆転状態が背後では進行しているのだ。

 このような形で退行する人たちのことを、この前の「魔女の宅急便」の記事でもご登場いただいたハンガリー出身のイギリスの精神分析家、バリントは「オクノフォリア」と呼ぶ。

バリント/スリルと退行

バリント/治療論からみた退行―基底欠損の精神分析

 (この前の「魔女宅」記事でもご紹介しましたが、この「ポニョ」記事を、当ブログにおいでになり、最初にお読みの方があるかもしれませんので、改めて、私の学会発表時の添付資料としての2冊の抜粋がPDFへのリンクを呈示させていただいておきます。興味のある方はこちらからご覧下さい)

 前回ご紹介したフィロバティズムにしても、オクノフォリアにしても、成熟した個と個の対象関係という観点からすると「退行的な」状態である点では共通している。

 ただ、フィロバットは、人間以前に、自分を包む空間全体を「お友だち」にしてしまえるまで自分のスキルを磨き上げる孤高な存在なのに対して、オクノフィリアは、空隙そのものを恐怖する。そして、自分が技を磨くのではなくて、周囲の人間の方をコントロールして従わせようとするのだ。

 フジモトは、決して、自然の海水に身を委ねてのびのびと安心していられる存在ではない(だからフィロバットではない)。むしろ自然のままの海を穢れたものだとしか感じていない。

 しかし、ポニョの成長は、自然の海水に触れたからこそはじまったのが現実なのである。

 そして、フジモト自身は、魔力で結界を生み出した中での純化された人工的な「命の水」領域を、海の中でもヘルメットのようにかぶりながらしか存在し得ない。

 それはまるで・・・・・人工的な「羊水」で満たされた「子宮空間」を持ち歩いているかにも見える(もとより、それはいい意味で人に若さを取り戻させる魔法でもあるようだが)。

*****

 ポニョは再び脱出を敢行する。魔法が使える彼女の血は、海に大嵐を巻き起こす。そして今度は、彼女は、ほんとうの人間の少女の姿になっていた。

 宗助の家庭が、お互いを対等に名前で呼び合う、近代的核家族の理想の姿であるかのように描かれているのも興味深い。母親リサは、勤勉で機転が利く 職業人であり、同時に十代の娘のような感情の奔放さももっているが、宗介をいい意味で早くから大人扱いし、厳しい時は厳しいが、権力的でない諭し方を心得 ており・・・・・同時に、まだ5才の息子の寂しさへの思いやりも失わない。

 勤務先の老人介護施設に、天候がおさまった一瞬の隙を突いて、海沿いの道を車で救援に向かう際に、母親のリサは、宗介とポニョを同乗させることを 選ばなかった。町中が水没し、停電する中で、どれだけ潮が満ちても水没しない丘の上の家に、今も明かりがともる家(自家発電できるのだ)があることがどれ だけ大事かを言って聞かせる。

 「遠くに行ってしまう母親」との間に大きな「距離(間隙)」が横たわる・・・・宗介にとってのオクノフィリア誘発的試練である。しかし、リサはそうした宗介の不安を十分に汲んだ上で、「きっと帰ってくる」と、離れても失われない信頼の絆を結ぶのである。(リサ自身は、あのドリフト運転、もの見事にフィロバット的ですが)

*****

 ・・・・・・・これ以降のストーリーについては言及しないでおこう。

 (それでも、この映画を見て「わかりにくかった」皆様にとっては、随分とすっきりとさせる整理を試みたつもりですが、いかがでしょう?)

 だだ、これだけは言い添えたい。

 この作品、一見、5歳の幼児を主人公にしているかに見えるけれども、実際には、もう少し年上の"boy meets girl"の物語に他ならないように、私にはどうしても映る。

 だから、BGMは、敢えてひねって、TRF - WORKS -THE BEST OF TRF- - BOY MEETS GIRLTRFとしましょう。

 歌詞はこちら

 (ほんとうにアニメ作品でこの曲をエンディングとして使ったのは、「赤すきんチャチャ」ですが^^)

*****

 そして、「魔法を失う」という問題については、私自身のアニメ評論のデビュー作(心理臨床系大学院への合格を面接時に確信した日に書き、2ヵ月後月刊"OUT"誌上に掲載された、

●魔法という名のモラトリアム(1986年2月29日執筆)

をご参照ください。

崖の上のポニョ [DVD]「崖の上のポニョ」 特別保存版 [Blu-ray]

******

【追記】

 ポニョに本来父親フジモトが与えていた名前、「ブリュンヒルデ」といえば、ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指輪」で、主神ヴォータンの娘、ワルキューレ(女戦士)の一人(物語全体の実質的ヒロインです)であることを、クラシックファンなら否応なしに連想する。

 フジモトが「ブリュンヒルデ!」とポニョに呼びかけた瞬間に、「ああ、もうこのオジサン、勝手に自分の夢想の世界に酔ってるな・・・・」と苦笑できる仕掛けになっているわけです。

 ブリュンヒルデは永い眠りから王子ジークフリートによって目覚めることになっているわけで、宮崎さんはやはりストーリー的にも影響受けていますよね。

 この映画の一番有名な「あるシーン」が、もろに「ワルキューレの騎行」張りのBGMですよね(wikipediaが「ワルキューレの騎行」そのものであるかのように記述しているのは誤り・・・・BGMの久石譲さんが「ワークナー風に」作曲したのではないか? ・・・・・でも、ううう、私、歌劇には比較的弱くて、とても上演に4晩かかる「指輪」の音楽の全体なんて思い出せないから、ワーグナーの「指輪」の中にある、他の部分の音楽をそのまま引用した可能性も否定できない・・・・)

 まずは、オーソドックスに、映画「地獄の黙示録」でも使われた、ハンガリー出身の名指揮者、Berit Lindholm, Birgit Nilsson, Brigitte Fassbaender, Claudia Hellmann, Helen Watts, Helga Dernesch, Marilyn Tyler, Sir Georg Solti, Vera Schlosser & Wiener Philharmoniker - Wagner: The Ring (Great Scenes)故・ゲオルク・ショルティ指揮、ヴィーン・フィルの抜粋盤をご紹介しておきます。

ワーグナー:楽劇「ニーベルングの指環」~オーケストラル・ハイライツ

 あと、個人的には、「指輪」の管弦楽のみによる抜粋としては、全然「歌劇的」ではなくて、とことん「純音楽」としてのタイトな仕上がりを重視した、無茶苦茶にオーケストラの性能が高いのがわかる、これまたハンガリー出身の往年の名指揮者、ジョージ・セル指揮/クリーヴランド管弦楽団のが、隠れた名盤としてお勧め。

 もちろん「ワルキューレの騎行」入ってますけど、何よりKlaus Tennstedt & ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 - Wagner: Orchestral Excerpts from Operas - Gotterdammerung (Twilight of the Gods) : Dawn and Siegfried's Journey to the Rhine「 夜明けとジークフリートのラインへの旅」(リンク先はテンシュテット盤)が、こんなにで「スポーティー」で「爽快な」演奏はセル盤の他にはありません!!  

 【追記】:このセル盤、何とBlu-spec CDでリマスターされて再発されているではないですか!!(限定盤です。普通のCDプレーヤーでも聴ける筈です)

Blu-spec CD ワーグナー:ニーベルングの指環(ハイライト)

(楽天はこちら)

 ワーグナー、特に「指輪」が苦手だった私の印象を根底から覆した、「ワーグナー嫌い」にお勧めの名演奏です。ほんとうにお勧め!!

Shop.TOL

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